ガーゼ服工房 garage(ガラージ) 中西達也さん・陽子さん
ガーゼ服工房garage(ガラージ)中西達也さん、陽子さんご夫妻
ガーゼ素材の商品を多数展開されているgarageを夫婦で運営している中西達也さん、陽子さんをお訪ねしました。
お二人のアトリエは、五重塔で有名な東寺の近く、京都市南区唐橋羅城門町にあり、壁の自転車のペイントが目印。ガラス張りのアトリエは外から中の様子が伺え、かわいいお洋服に思わず足を止めてしまいそう。
アトリエの中は、かわいいお洋服はもちろん、お二人がイギリス滞在中に手に入れた洋書がインテリアとして飾られていたり、イラストレーターのご友人からプレゼントされた壁画があります。少しレトロなアトリエの雰囲気は、お客様をタイムスリップさせるかのように、ちょっとした非日常感を味わわせてくれます。
garageさんのアトリエ兼ショップ
garageさんのアトリエショップ入口に置かれた看板
デザイン・パターン・裁断・縫製・染色まで、自分たちが一貫して手がける
ー多数のガーゼアイテムを展開されているgarageさんですが、どのような商品をメインに展開されていますか。
最近はレディースアイテムを多く展開しています。ブラウスを中心にTシャツ、ワンピース…最初はユニセックスのTシャツがブランドの始まりだったので、レディースアイテムに比べると少ないですが、メンズアイテムもご用意しています。garageのメンズアイテムの販売は、主にクラフトカフェさんでお願いしています。
アトリエショップに展示されている、色とりどりのガーゼ服たち
─客層も女性が中心だと思いますが、年齢層はどれぐらいの方が多いですか。
やっぱりファストファッションに比べると価格が高いので、主に40代以上の女性の方にご愛顧頂いています。ポップアップショップを百貨店で開催した時は、より若い年齢のお客様にも興味を持って頂き、一度に何着もご購入頂いたこともあります。
─ガーゼ素材のお洋服は肌に優しく手触りが良くて、たくさんの方に求められているイメージがあります。
実際に肌が弱くて敏感な方からも好評を頂いていますし、商品のお問い合わせを頂くこともあります。garageで扱っているお洋服はガーゼ素材のものですが、バイアス使いによって伸縮性があり、とても着心地が良いんです。
─色もとても綺麗ですね。
色も染料を調合して自分たちで染めています。人気色は白色ですが、お客様にはさまざまなカラーバリエーションを楽しんで頂ければ幸いです。
garageさんが創業当初から手がけているダブルガーゼ素材のレディースTシャツ。裁断した残りの生地はフリンジとしてデザインに生かされています
ガーゼシャツの触り心地の良さに、取材班からもおおー!と声が上がります。
─バイアス使いは生地の切り方が特殊で、本来なら生地効率が悪いとお聞きしましたが。
確かにバイアス使いは生地効率が悪く一般的にはあまり用いられていないのですが、garageでは余った生地をフリルなどの装飾に利用して、なるべくロスを出さないように工夫しているんです。
─なるほど、資源を無駄にしないSDGsの観点からも素敵な取り組みですね。
ありがとうございます(笑)。でもSDGsやエコを意識したっていうよりかは、時代が自分たちに追いついてくれた感じですね(笑)。
─ガーゼを素材として使い続けるこだわりには、どのような理由がありますか。
京都衣笠の「わら天神宮」の安産祈願でいただいた産着がガーゼ製で、手触りがとても良かったんです。でも当時ガーゼ素材の大人用のお洋服が一般的ではなくて、「無いなら、自分たちで作ろうか」と思い立ったのがきっかけです。生地のバイアス使いは当時から継続していて、作ってみるとガーゼ素材のお洋服は丈夫でシルエットも綺麗だし、デザインも多様で、お客様の中には一つのお洋服を10年以上も愛用して下さっている方もいます。
京都の安産祈願の神社として知られる「わら天神宮」(京都市北区衣笠馬場町)。
正式名称は「敷地神社」(しきちじんじゃ)ですが、安産御守として藁が授与されることから「わら天神」と呼ばれる。
腹帯や安産御守、赤ちゃんの産着などの授与品がある。
ガーゼ服の縫製をする中西陽子さん
ガーゼ服のパターン(型紙)を作る際に使うトルソー
アパレル企業を退職後、3年間のイギリス留学が転機に
──10年以上も!お二人が築き上げてきた20年以上の長い歴史があるからこそですね。お二人は元々アパレル企業にてパタンナー等クリエイティブなお仕事をされていたご経験がありますが、当時から独立したいという意欲があったのでしょうか。
転機があったとするなら、イギリス留学がすべてのきっかけだったんじゃないかと思います。
─イギリス留学ですか、それは服飾の勉強をするために行かれたのですか。
いや、僕は元々学校を卒業してスポーツメーカーに就職して、そこでパタンナーをやった後、装飾タイルを製作する会社に転職し、そこで5年ぐらい働いていました。 スポーツメーカー勤務時代に力士のジャージ制作のため、実際に力士の方の身体の採寸をしたこととか、刺激的な体験も色々とあったのですが、なんか日本での仕事にちょっと飽きてしまって(笑)。 イギリスには刺激を求めに行ったのかもしれません。通ったのも服飾専門学校や大学ではなくて、語学学校でしたから。
─ご夫婦共にイギリス留学のご経験がありますが、留学先でお知り合いになったのですか。
いえ、元々日本の短大で知り合って、それからの仲なんです。学生時代に学校の研修旅行でイギリスを訪れて、なんだか良いなと思ったんですよね。だから、海外に行くならイギリスだと2人でずっと思っていたので、イギリスに留学を決めました。イングランドのサウサンプトンという、海が綺麗な港町に行きました。タイタニックが出発した場所で有名なんです。
─現地での生活はいかがでしたか。
日本との様々な違いに驚きましたね。住む場所を確保するのに苦労したので、現地では到着後しばらくユースホステルに夫婦で滞在しました。アルバイト先を探すのも大変でした。何事も直接お店に出向いて部屋の空きはあるか、アルバイトを募集しているかを聞かなければならなかったので。
─日本では賃貸を問い合わせたりアルバイトに応募するのはとても簡単なので、日本人にとっては中々ショックですよね。
まあ20年以上も昔の話なので今はもっと楽になっているかもしれませんが(笑)。 当時はイギリス留学を決めたものの、2人とも英語力ゼロの状態で出発したので、現地のイギリス人とのコミュニケーションには苦労しましたが、最終的にはなんとかなりましたね。 住むところも借りられたし、宿泊施設の管理をするアルバイトに採用されて、お金を稼ぐこともできました。
1990年代後半・イギリス滞在当時
イギリス滞在中に手に入れた洋書、イラストレーターのご友人からプレゼントされた壁画がディスプレイされたアトリエ
─お二人のタフさには恐れ入ります。当時はイギリス現地での就職を考えていたのでしょうか。
はい、実際に話がまとまりつつあったのですが、ビザの発給の関係で現地就職はできませんでした。 勤め先がビザ発給の手続きをしてやるというので期待していたのですが、「その仕事を日本人にしてもらう必然性が無い」と行政に判断されてしまい、話が流れてしまったんですよ。
─せっかく話がまとまりかけていたのに、それはショックですね。
まあ仕方ないですからね(笑)。 そんなことがあっても車を買って放浪の旅をしたりと、楽しくしていましたよ。 向こうで中古の日産のサニーが7万円ぐらいで売っていて、それを相棒に色んなところを巡りましたね。
─7万円!それは安いですね!
最終的に帰国する時に、4万円ぐらいで別の方にお譲りしました(笑)
─それはお得でしたね。帰国を決意された理由はどのようなものがありましたか。
金銭的な理由と、あとはビザの都合ですね。 イギリスには充分な資金を準備して行ったのですが次第に余裕が無くなり、ビザも延長したのですが限界を迎えてしまい…もう日本に帰るしかない状況になってしまいました。
イギリスから帰国後、garageを立ち上げ、手作り市での販売から始まり、現在は百貨店でポップアップショップや服作りのワークショップも開催するまでに
ー日本に帰国してからの生活はいかがでしたか。
帰国した2000年頃、日本はいわゆる就職氷河期の時代だったので、なんともタイミングが悪かったです。不景気で働き口が中々見つからなくて。
ーなるほど、だからお二人でgarageを立ち上げようと思ったのですか?
いや、僕はなんとか手描き友禅の会社に就職したのですがgarageを立ち上げるに至ったのは、その会社での経験がきっかけになりました。最初は会社で手描き友禅をやっていたのですが、4ヶ月ぐらいで同じ会社の営業職に配属されました。営業として1年ぐらい勤めたのですが、小さい会社だったので、経営のノウハウを間近で見て学ぶことができ、次第に自分でやってみたいという思いが強くなってきたんです。
ーイギリス留学、手描き友禅会社での経験と来て、garageができあがったのですね。garageの始まりはどのようなものでしたか。
先程もお話しした通り、子どもの産着からヒントを得て、当初からガーゼ素材のお洋服を販売していました。最初は手作り市で商品を販売したのですが、「かわいい」と手にとってくださるお客様がいらっしゃって、反応が良くてとても嬉しかったですね。
ー手作り市からスタートしたgarageさんも、今では百貨店でポップアップショップを開催するまでになっています。ブランドの成長ぶりをどのように思いますか。
阪急百貨店さんでポップアップショップを開催させて頂くのですが、普段アトリエでは出会えない新たなお客様や、SNSで見てずっと興味があったというお客様に出会えるのはとても嬉しいです。リピーター様も多数いらっしゃって、何度も足を運んで頂けるのは、私たちのこだわりがお客様の心に届いたようで、感動的に思います。
また、ポップアップショップの出店がきっかけで、新たなご縁が結ばれることもありました。ちょうどgarageのブースの隣で運営していらっしゃった、同じく京都を拠点に営業されているスピカ模様店さんとご縁があり、スピカ模様店さんのご協力のおかげでこのようなかわいいガーゼシャツの販売が決まりました。 私たちは模様を考えるのが苦手だったので、スピカ模様店さんのご協力は本当にありがたかったんです。
スピカ模様店さんが手掛けたかわいいジンベイザメがあしらわれたガーゼシャツ。一同かわいい〜!と声が出ました
ーこれはかわいい!
このシャツはユニセックスで着ることができるので、たくさんの方に手に取って頂きたいです。 このシリーズはシャツの他にもスカートを販売しており、セットアップで楽しむこともできます。 ジンベイザメが海で泳いでいるようなデザインは涼しげで、これからの季節にもぴったりたと思いますね。 ポップアップショップの開催をきっかけに、このようなチャンスを頂けたのは本当にありがたかったです。他にも、百貨店で服作りのワークショップを開催させて頂いたこともありました。
実家の豪雨災害、コロナ禍を越えて
ーお二人で道を切り開き、チャンスとご縁を味方に付けて行く姿にとても尊敬します。しかし、20年以上も続くgarageの歴史は、決して良い思い出だけではなかったのではないでしょうか。
そうですね、私(陽子さん)の実家は広島県にあるのですが、ちょうどワークショップ開催の初日に広島は豪雨で洪水の被害があり、私の実家も被災しました(2018年7月の西日本豪雨)。
ワークショップ開催中も家族のことが心配で、ワークショップが終わってからすぐに広島に向かった経験があります。 その他にも、コロナ禍を迎えて外出自粛の影響でアパレル業界全体が影響を受けましたが、garageも例外ではありませんでした。
このように、大変なことがなかった訳ではありませんが、それでもポジティブに前を見据えて頑張れるのは、イギリス留学での経験が基になっているのかもしれません。
留学を通して学んだのは、「日本人は深刻すぎる」ってことなんです。そして私たち日本人から見たイギリス人は、正直に言うとちょっと適当に生きている様にも感じますが、それぐらい肩の力を抜いて良いんじゃないかと留学を通して気づいたんですね。
ーお二人のように日本での華やかなキャリアを一度手放して、英語力ゼロの状態でイギリスに行き、その後帰国してからアパレルブランドを立ち上げるというのは、多くの日本人は尻込みしてしまいそうですね。
あまり深刻に考えずに、もっと肩の力を抜いて色んなことに挑戦してみても良いんじゃないかなと思いますね。私たちの息子も両親の背中を見て育ったからか、フリーランスとして自分のやりたいことに積極的に挑戦しています。
一般的には我が子には会社勤めして安定した生活を送ってほしいという親が多いかもしれませんが、私たちは自分の子どもにそういった心配はあまりしていなくて、親としてその姿を見守りたいですね。
ーお二人がそのような思いでいらっしゃると、お子さんもポジティブにご自身の夢に向かって挑戦できると思います。お子さんのgarageへのフィードバックはいかがですか。
子どものころは私たちが作った服をすごく気に入ってくれていて、自分から進んで一日中着てくれていたのですが、成長するにしたがって着てくれなくなりましたね(笑)
たくさんの方にガーゼ服の魅力、服作りの楽しさを伝えたい
生地の裁断作業。
「自分たちの手を使ってできる事は、できる限り自分たちで」
そんな思いを元に、デザイン・パターン・縫製・染色まで一貫して手がけられています。
一点一点縫製後に手作業で染めあげています
ーgarageはコロナ禍を乗り越え、2024年で23年目の歴史を迎えることとなりました。今後の展望を教えてください
私たちの目標は、garageをずっと続けることです。そのために、物事をあまり深刻に考えすぎず、ポジティブに考えて今後もブランドを守り続けて行くと思います。
今年からはスピカ模様店さんのプリント生地を使ったシャツの販売も始めましたが、販売後すぐにソールドアウトする程に人気があります。ぜひたくさんの方にチェックして頂ければ幸いです。
また、2024年7月も大阪の阪急うめだ本店にてガーゼ服作りのワークショップを再び開催予定です。 ワークショップの開催は準備が大変ですが(笑)、それでも多くの方との出会いにワクワクしています。 今回のワークショップでも、たくさんの方に服作りの楽しさやgarageの魅力をお伝えできればと思っています。
ブランド名の「garage」(「ガラージ」はイギリスでの発音)は、日本では「車庫」という意味で使われますが、海外では「ものづくりの場所」という意味でも使われるそうです。クラフトカフェでは、日本国内はもちろん、海外にお住まいのお客様からもgarageさんのご注文が入ることもあり、お二人の服作りに懸ける思いは、海を越えて多くの方に届いています。
ガーゼで作られたお洋服の優しいタッチは、まるで制作者であるお二人のお人柄を表しているかのようでした。ぜひあなたも手に取ってみませんか?
ガーゼ服工房garage(ガラージ) 中西達也さん・陽子さん プロフィール
右:中西 達也(ナカニシ タツヤ) 1969年 京都生まれ
京都芸術短期大学服飾デザインコース卒業後、スポーツ用品メーカーのアシックスへパターンナーとして就職。
日々、スポーツウェアや一流スポーツ選手用ウェアのパターンを作製していたが、もっと汗水流し体を使ったモノ作りをしたいと思い、約2年間お世話になったアシックスを退社し、大塚オーミ陶業へ転職。大きなタイル製造や、ビルエントランスホール・ビル壁面などの装飾用美術陶板の製造メーカーで、作家作品の美術陶板やサイン陶板の製造に携わる。主に写真製版技術による陶板作製を担当。ここで、色々なモノ作りの基本を学び、有名作家作品に触れる事により「モノ作り」に対する色々なコダワリ感が生まれてくる。
約5年間勤めたが退職し、なんとなく日本と何か違う環境を求めて永住するつもりでイギリスへ。ビザの都合で1999年末、帰国。その頃日本は、高失業率で仕事を探すがなかなか見つからず、約半年間ブラブラして日本の良さを再発見。運良く京都なので着物の染め屋へ就職。展示販売会営業として日本中を飛び回る。
そうこうしている間に何故か、メラメラと「やる気」と「自信」が湧いてきて、今まで習得した技術と経験で自分でモノを作って販売する事を決意。あっさり染め屋を退職。
左:中西 陽子(ナカニシ ヨウコ) 1968年 広島生まれ
京都芸術短期大学服飾デザインコース卒業後、大阪の婦人服アパレルメーカーへパターンナーとして就職。約4年間勤務、その後フリーイラストレーターやフリーパターンナーの仕事をする。
なんとなく日本と違う環境を求めて永住するつもりでイギリスへ。イギリスでは英語学校へ行くかたわら住み込みアルバイトをしながら約3年間生活。ビザの都合で余儀なく日本へ帰国。
その後、メラメラと「やる気」と「自信」が湧いてきて、今まで習得した技術をフルに活用し、自分でモノを作って販売する事を決意。
2002年夫婦でガラージをスタート。一児の父・母。