吊編み機はニット製品が工業的に出てきた明治の時代から昭和30年代頃までずっと活躍していた編み機です。その後、編みの速度が遅く生産効率が上がらないため後続の新しい機械にどんどんその場を奪われてきました。
そして、現在ではその機械はおろか使い方の知っている職人さんも一握りに。部品なんかも全て昭和の時代に製造中止になっているので新しく機械を作ることが出来ません。古い機械を、更に古い部品取り用の機械から必要なパーツを取って調整して修理・メンテナンスする、といった状態だそうです。
そんな前近代的な機械を200台もキープして大事に使っておられるのが、カネキチ工業さんです。
なんでそんな古くて遅い機械を今でも大切に使っておられるのか・・・
古いから、遅いからいいんじゃないんです・・・
単なる懐古主義ではありません・・・
吊編み機でないと出来ない編地があるからです!
自分好みの究極のTシャツを追究し続ける青木さんが、最後にたどり着いた吊り編み天竺Tシャツ!
その吊編み機ならではのポイントをどうぞ!
吊り編み機が工場の木の梁に鉄柱で据え付けられています。この鉄柱で固定されているだけです。つまり、木の梁に「吊られている」から吊り編み機。写真ではわかりませんが、下は地面から浮いています。この機械でだいたい直径80cm位で、コンパクトです。上の梁とのジョイント部分のねじを外せば付け替え可能です。工場に取り付けられるのは90台ほどえすが、バックヤードに次の出番を待つ吊り編み機が110台ほど待機しています。
こちらは吊編み機の給糸部分。画像の右側にコーン状の糸が2つあります。これから糸が出ているだけです。そう!糸2本だけです!吊編み機は1~4本位までしか一度に糸を供給できません。だから、下の丸い円柱が一周しても糸1~4本分の太さしか編めないのです・・・。編地にも寄りますが1反編むのに2~3日かかるそうです。また、編み機の右側にある丸い円盤上の部分を「へそ」と言います。このへそ部で編地を作っています。
へそに糸が送り込まれている画像です。へそに付いているへそ板と、回る本体についている横向きの針(ヒゲ針)に乗っかった糸がへそ部で重なって天竺目が出来ていきます。画像ではわかりませんが・・・。この編みの工程で糸にはほとんどテンションがかかりません。現代主流になっているシンカー丸編み機などは針が上下に動いて糸を引っ張ってループを作って編目を形成しますが、吊編み機は糸に力をかけないので糸のふっくら感が失われないまま編地に仕上がるんです。
これは現在の最新式高速シンカー丸編み機です。糸が上から縦横無尽に下の編み部分に下りています。だいたい40~60本位の糸が一度に下りていて、それが一度に編まれます。下のドラムのような丸い円柱がぐるっと回ってどんどん編みます。だから、ドラムが一周すると糸40~60本分の太さだけ生地が出来上がります。この糸のテンションとか送り込み量などを精密に制御できます。素晴らしい編み機械です!
横向きの針(ヒゲ針)一本一本に糸が引っかかってます。これは前の周にへそ板で乗せられた糸です。今からまたへそ部に侵入して次の糸と交差してこの針の上の糸ひとつひとつがまた編目になります。その時糸はこれ以上引っ張られません。現代の編み機は上向きの針のかぎ状の部分に糸を引っ掛け、それが上下に動いて次の糸をまた引っ掛けて編地を作ります。すなわち糸が強く引っ張られた状態で編地が出来てしまう。編む工程で糸に力を加えるか加えないかが、後の生地の風合いに大きく関わってきます。この構造上の仕組みが吊編み機と今の機械では全く違うんです。
吊編み機の全体像。編まれた生地は下にどんどんたまっていきます。これは生地の自重で落ちるだけ。画像はありませんが、現代の編み機は綺麗に巻き取ってしまいます。これは巻き取ったほうが後で扱いやすいからです。でも、巻き取るには生地を引っ張らなければいけません。そう、吊編み機は編み上がった生地にも全く力をかけません。下にたまった吊編み機の生地は畳んだり荷造りするのにちょっと大変です。でも、その苦労をする代わりに生地がリラックスした状態で仕上がります。すなわち、吊編み機は糸や生地に最後まで余計な負荷をかけずにゆっくりふっくら編んでくれる機械なんです。
再びヒゲ針に糸がかかっている画像です。綺麗に揃ってますよね。このヒゲ針が等間隔で完全に水平になっていることが、アナログで頑固なこの吊編み機に良い仕事をしてもらう必須条件なのだそうです。で、これ、職人さんが目分量で調整して針を機械につけるそうです!!昔の機械だから交換可能なプログラムなんてなくて、全部人の手、人の感覚らしいです。一つの編み機に1000本以上あるんですヨ、このヒゲ針。すごいです・・・。
を待つ吊編み機たち・・・稼動しているものとこのバックヤードで計200台ほどの吊編み機をお持ちだそうです。全国各地の編み屋さんから集めてここまで揃ったらしいですが、「まだ足りない、もっと欲しい」んですって。最近では使い方がわからなくなったあちこちの編み屋さんがカネキチさんの噂を耳にしてわざわざ持ち込んできてくれるところもあるらしいです。素晴らしいですね!