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日本のデニムを支えるまち、広島県福山市 : 江戸時代から続く「藍と綿のものづくり」

広島県福山市 産地見学ツアー「DENIM EXPO 2025」レポート①

日本を代表するデニムのまち、広島県福山市の産地見学ツアー「DENIM EXPO 2025」で学んだことや感じたことをまとめて、ご紹介したいと思います。

日本を代表するデニムのまち、広島県福山市


当店で取り扱いの倉敷市児島のデニムブランド「graphzero」でも、福山産のデニム生地を採用しているモデルがあります(画像はカイハラ株式会社さんのモンスターストレッチデニムを採用したジャケットとジーンズ)。

「日本のジーンズ・デニムの産地」と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは、岡山県倉敷市児島という方が多いかもしれません。でも実は、岡山県のすぐ隣にある広島県福山市も、日本のジーンズ・デニムづくりを支える「もうひとつの聖地」です。

1本のジーンズとして形になるまでの工程は、大まかに2つに分けられます。まずは、綿を紡績して糸にして染色し、デニム生地を織る工程。そして、デニム生地を裁断して縫製、洗い加工などを施し、ジーンズという製品に仕上げる工程です。

福山市はデニム生地の生産が盛んで、現在、国内で流通している国産デニム生地のおよそ8割が、福山市周辺で生産されているといわれています。

「デニムのまち」の起源~江戸時代の綿花栽培と「備後絣」


備後絣

JR福山駅の北側出口すぐにある福山城

福山市は、広島県の東南部、瀬戸内海に面する都市。人口は2025年4月末時点で約453,245人で、広島市に次ぐ広島県第2位の人口となっており、中国地方の中核都市の1つに数えられています。

1960年代以降は、鉄鋼、金属加工、造船、半導体関連装置などの製造業が進出し、「ものづくりのまち」」として発展してきました。福山市に本社や拠点を構える有名な企業には、物流・陸運業の福山通運、「洋服の青山」で知られる青山商事の本社、鉄鋼業のJFEスチールの西日本製鉄所などがあります。

また、繊維産業の歴史も長く、福山市のデニム産業の歴史は、今から約400年前の江戸時代にさかのぼることができます。

福山藩の初代藩主・水野勝成公が、塩分濃度の高い瀬戸内の埋立地でも育つ作物として綿花栽培を奨励したことをきっかけに、現在の福山市を含む備後地域(現在の広島県東部と岡山県西部の一部)では綿織物産業が発展しました。

江戸時代後期には、「備後絣(びんごがすり)」と呼ばれる藍染めの絣織物が誕生。久留米絣、伊予絣と並んで日本三大絣のひとつに数えられ、全国にその名を知られるようになりました。

備後絣は、主にもんぺなどの作業着・普段着として使われ、用途の面で現代のデニムと近い衣服といえます。この備後絣と藍染めの歴史が、現在のデニム産業へと受け継がれていきます。


福山駅で見かけた、デニム生地で作られたクリスマス装飾(2025年11月)。

まちの玄関口である福山駅では、デニムにまつわるイベントの案内も見かけます。

福山駅南口からすぐの百貨店、天満屋福山店には、福山デニムのアンテナショップ「FUKUYAMA MONO SHOP」があります(運営は 山陽染工株式会社さん)。福山市のところどころに「デニムのまち」を感じる風景があります。

福山市は「ばらのまち」としても有名。1945年の空襲により、市街地の8割が消失した福山市では、復興に向けた希望を与えるシンボルとして、ばらが多く植栽されるようになりました。

夜の福山駅。駅のすぐ北側には福山城があります。

備後絣からデニムへ ― 技を受け継いだ産地の転換

福山のデニム産業には、備後絣から続く100年を超える歴史を持つ企業も存在します。福山のデニム職人たちは、旧式の織機などを丁寧に整備しながら、伝統的な技術と最新の技術を融合させ、国際的にも評価の高い、高品質なデニム生地を生み出してきました。

戦後、衣服の洋装化、合成繊維の普及、プリント技術の発達といった時代変化の中で、備後絣の需要は減っていきました。こうした状況を受け、1970年代には、備後絣という伝統産業で培った技術と経験を、デニム生地という新しいマーケットに活用する企業があらわれます。

1893年の創業で、現在はヴィンテージデニム生地メーカーとして高い評価を受けているカイハラ株式会社さんは、もともと備後絣の染色と織布を手がける企業でした。備後絣の藍染めの経験を活かし、1970年に日本で初めて「ロープ染色機」を自社開発し、デニム生地の本格生産に着手します。


カイハラさんのロープ染色機。ロープ染色は、糸をロープ状に束ねて染める染色方法。糸の表面のみを染め、糸の芯は白く残すことが特徴です。デニムは穿きこんでいくと糸の表面が削れ、糸の白い部分があらわれてきますが、これがデニムならではの色落ちの要因となっています。カイハラさんの社内には鉄工所があり、自社で機械の部品もつくっているそうです。

1970年代は、ジーンズが世界的なカジュアルファッションとして拡大していた時代。福山の繊維産業は、この時代の変化をとらえ、備後絣からデニム生地の産地へとシフトしていきました。

デニム生産の全ての工程が集積する、産地の力


中国紡織さんのスラッシャー染色機

中国紡織さんの刺子デニムを織る様子

現在の福山市には、デニム生産の全ての工程が集積しています。

紡績・染色・織布・生地加工といったデニム生地の生産。そして、縫製・洗い・二次加工といったジーンズなどの製品に仕上げる工程。

福山には、これらの各工程に専門の工場や職人がいます。それぞれの分業により専門性を高め、産地として連携したものづくりによって、世界でも高く評価されるデニムを生み出しています。


山陽染工株式会社さんでは、抜染プリント(生地から色を抜いて柄を表現するプリント方法)などの生地加工を行っています。山陽染工さん独自の「段落ち抜染」は、色の濃淡をつけてデニムの色を抜く生地加工技術。これまでのデニムにはない新しい表現を可能にし、デニムの可能性を広げています。

次の世代へ続いていく、デニムの物語


福山のデニム産業で働く若手の有志グループ「デニムのイトグチ」さんが運営に参画されている産地見学ツアー「DENIM EXPO 2025」(中国紡織さんの工場見学)

一方で、職人の高齢化や後継者不足、産地についての情報発信など、課題も少なくありません。このような状況の中で、産地の未来をつくる取り組みも進んでいます。

「デニムのイトグチ」は、「デニムの魅力を産地から」をコンセプトに、福山のデニム産地で働く若手たちが2023年7月に立ち上げた有志グループ。

福山のデニム産地全体の活性化を目的として、産地ツアーの企画、企業やデザイナー向けのコーディネートのほか、デニム産地の若手を中心とした交流会など、産地企業の垣根を超えた活動をされています。

今回参加させていただいた「DENIM EXPO 2025」は、デニムのイトグチさんが運営に参画されている産地ツアー。デニムのイトグチのメンバーの方々には、デニム生産の現場への案内と解説をしていただき、福山のデニム生産の現場、産地の歴史と文化、そして生産者の思いに触れる貴重な機会をいただきました。

「働く人の顔が見えると、デニムはもっと面白くなる」 ー デニムのイトグチさんの活動は、この思いを体現しているように思いました。


ディスカバリーリンクせとうち

デニム縫製の後継者育成のためのデニムスクールも運営するディスカバーリンクせとうちさんには、デニムの縫製用のミシンが揃っています。

「HITOTOITO(ヒトトイト)」のデニムスクール参加者の課題となるデニムのトートバッグやショートパンツ。

株式会社ディスカバーリンクせとうちさんは、福山市とその隣の尾道市を拠点に、地方創生とビジネスを掛け合わせたユニークな事業を展開されています。 同社が運営する事業の1つ「HITOTOITO(ヒトトイト)」 は、地域の縫製会社と連携し、デニムの作り手の技術、その思いや歴史を次世代に引き継ぐための産地継承プロジェクト。

福山の縫製技術を受け継ぐ担い手育成を目的としたデニムスクールは、2週間で1本のジーンズを縫えるようになる実践的なカリキュラムが特徴。これまで19歳から74歳まで幅広い年齢層が参加し、広島県外からの参加者も増えています。2025年の時点で卒業生は170名を超え、約1割が縫製工場への就職や独立を果たしているそうです。

一本の糸から始まり、様々な工程を経て、私たちのもとへ届くデニム。その背景には、産地に蓄積された技術と、デニムを愛する人々の深いこだわりが息づいています。

 
取材・文/田畑一彦 

■DENIM EXPO
https://denimnoitoguchi.com/denimexpo

■デニムのイトグチ
https://denimnoitoguchi.com/
@denimnoitoguchi

■カイハラ株式会社
https://www.kaihara-denim.com/
@kaihara_denim.sales

■ディスカバーリンクせとうち
https://dlsetouchi.com/

■HITOTOITO(ヒトトイト)
https://hito-to-ito.com/

■山陽染工
https://www.sanyo-senko.co.jp/

■中国紡織
http://chugoku-boshoku.co.jp/