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日本のデニムの源流に触れる:世界に誇る「カイハラデニム」のロープ染色

日本のデニムの源流に触れる:世界に誇る「カイハラデニム」のロープ染色

広島県福山市 産地見学ツアー「DENIM EXPO 2025」レポート②

「産地レポート」は、ものづくりの背景をより深くお伝えするためのコンテンツ。

国産デニム生産量日本一を誇る広島県福山市で開催された、年に一度のデニムの祭典「DENIM EXPO」。このイベントは、分業制で成り立つデニム製造の現場を訪れ、産地の歴史と技術を体感できる貴重な機会です。

今回は、世界中のラグジュアリーブランドからも絶大な信頼を寄せられるカイハラ株式会社さんのデニム工場見学を中心に、備後絣からデニムへと進化した産地の歩みをレポートします。

備後絣からデニムへ:400年続く「藍」の変遷


福山デニムの源流ともいえる備後絣(びんごがすり)。藍などで部分的に染めた糸で織ることで、かすれたような模様を表現しています。カイハラさんの歴史も、この備後絣の生産から始まっています。

広島県福山市の繊維産業は、1622年に初代福山藩主・水野勝成が綿花栽培を推奨したことに端を発します。瀬戸内沿岸の干拓地は塩分を含んでいたため、塩害に強い和綿の栽培が適しており、やがて日本三大絣の一つである「備後絣」へと発展しました。

昭和30年代、備後絣は年間300万反を生産し、全国シェアの7割を占める黄金時代を迎えます。しかし、和装から洋装への変化という時代の荒波に直面し、産地は存亡の危機に立たされます。


カイハラ株式会社さんの本社工場

1893年創業のカイハラさんは、もともと備後絣の染色と織布を手がける企業でした。戦後の洋装化によって備後絣の需要は減っていきましたが、1970年に日本で初めて「ロープ染色機」を自社開発し、デニム生産に転換。カイハラさんの挑戦をきっかけに、福山市は「デニムの聖地」としての新たな歴史を刻み始めます。

糸づくりからデニム生地の仕上げまで、一貫生産を手がける


カイハラさんのInstagramも担当する齋藤さん(画像はカイハラさんのInstagramより)。カイハラさんのInstagramはこちら

カイハラさんの工場に向かうバスの中では、同社の商品開発課の齋藤さんが、デニムへの情熱溢れる自己紹介と、カイハラさんの強みを語ってくださいました。

齋藤さんは、福山市ではなく、大阪のご出身。ヴィンテージジーンズの再現を目指す大阪発祥のデニムブランド「OSAKA5(大阪ファイブ)」(STUDIO D’ARTISAN(ステュディオ・ダルチザン)・Denime(ドゥニーム)・EVISU(エヴィス)、FULLCOUNT(フルカウント)・WAREHOUSE & CO.(ウェアハウス)の5ブランド)に影響され、デニムに魅了されたそうです。

その情熱を胸に、大学卒業後はデニム産地である福山のカイハラさんに就職。セルビッチデニムの職人を目指し、シャトル式織機の織布の現場で4年半の経験を積んだ後、上司の助言で商品開発課へと異動。現在は生地の設計のほか、カイハラデニムの公式Instagramの運営を担当されています。

また、「デニムの魅力を産地から」をコンセプトに、福山のデニム産地で働く若手によるグループ「デニムのイトグチ」のメンバーとしても活動されています。

カイハラさんの最大の強みは、原綿の選定・輸入から紡績、染色、織布、整理加工(生地の仕上げ加工)まで、デニム作りの全工程を自社内で完結させる「一貫生産体制」を確立していることにあります。

糸づくりからデニム生産を手がけることで、ブランドの要望に合わせた色あいや風あいを細部まで調整することが可能になります。その生地の再現性・安定性は、世界中のブランドから高く評価されています。

デニム生地の生産工程

デニム生地の生産工程は、主に「紡績」「整経(せいけい)」「染色」「分繊(ぶんせん)」「織布」「整理・生地加工」に分けられます。


カイハラさんの紡績機(DENIM EXPO 2025 の冊子より)

紡績は、原料となるコットンから糸を作る工程。デニムらしい表情を得るために、あえて太さにムラのある「ムラ糸」が作られます。ムラの太さや長さ、糸の撚りの強さになどの設計によって、デニム生地になった時の表情が変わります。


デニム生地の断面

整経は、紡績した600本ほどの糸をロープ状に束ねる工程。

その後の染色工程では、「ロープ染色」というデニム特有の方法で染められます。

ロープ染色は、糸の芯を白く残す染色方法(中白(なかじろ)や芯白(しんじろ)と呼ばれます)。糸の芯を白く残すことにより、穿きこむほどに糸の表面が剥がれて白い部分が現れ、デニムならではの色落ちが生み出されます。

染色後の1本1本の糸を平行に並べ、シート状に戻す分繊工程は、カイハラさんのなかでは生産性や品質管理上、非常に重要とされている工程とのこと。カイハラさんは工場見学を広く受け入れられていますが、分繊工程だけは絶対に見せられないそうです。


≪セルビッチデニム≫

分繊の後の織布工程では、インディゴで染色された経糸(たていと)と、染色されていない緯糸(よこいと)で、デニム生地を織り上げていきます。

織機には、昔ながらの「シャトル式織機」と近代的な「広幅織機」があり、「耳付き」とも呼ばれるセルビッチデニムはシャトル式織機で織られています。シャトル織機はゆっくりと低速で織るため、糸に過度な負荷がかからず、手織りに近い独特の凹凸(スラブ感)を持つ生地になります。

整理加工は、織布(製織)が終わった後のデニム生地に施される最終的な仕上げ工程。織生地表面の毛羽(けば)を焼く「毛焼き」、ねじれ防止加工(スキュー加工)、防縮加工(サンフォライズ加工)などの加工が施され、生地の外観や収縮率、風合いを調整し仕上げられます。

600本ほどの糸を1本のロープ状にまとめる「整経」工程


「チーズ」と呼ばれる巨大な糸の塊(DENIM EXPO 2025 の冊子より)。

工場の倉庫には、膨大な数の「チーズ」が積まれています。

今回、実際に見学させていただいたのは、デニムの「整経」と「染色」の工程でした。

紡績された糸は、まず「チーズ」という形状に巻き取られます。やや平べったい巨大な糸巻きみたいな感じですが、この状態が食品のチーズに似ていることから「チーズ」と呼ばれています。

カイハラさんでは、太めの3番手の糸から非常に細い40番手の糸まで、多種多様な糸を使ってデニムを織っています(糸の太さは、番手の数字が小さいほど太くなります)。チーズ1つあたりの重さは約3kgで、約50kmもの長さの糸が巻かれているそうです。


整経の工程でロープ状にまとめられた糸。

整経の工程では、600本ほどの糸を1本のロープ状にまとめる作業が行われます。糸の一本一本に均等なテンションをかけ、いかに美しくロープ状に巻き取るかが重要になってくるとのことです。

「世界最長クラス」を誇るロープ染色機


カイハラさん本社工場のロープ染色機。インディゴの染色槽に漬けて引き上げて酸化させる工程を繰り返すことで、徐々に濃いインディゴに染め上げられていきます。見学時には、ヴィンテージ感を出すため、まず薄いブラウンで下染めしてから(上の画像の右側)、インディゴで染色されていました。

カイハラさんでは、デニム製造を追求するために、ロープ染色機をはじめとする機械そのものを自社で設計・開発。それを支えるために社内に鉄工所も保有しているそうです。

今回の見学のハイライトは、「世界最長クラス」を誇るロープ染色機による、セルビッチデニム用の糸を染める工程。ここでは、整経工程で束ねられたロープ状の糸を、16本同時に染め上げていきます。

インディゴ染料は液中では黄色っぽい色(還元状態)をしていますが、空気に触れることで酸化し、美しいインディゴブルーへと発色していきます。

ロープ染色は、糸の芯を白く残す「中白(なかじろ)」(芯白(しんじろ)とも呼ばれます)を残すことに特化した染色方法。糸の芯が染まっていないため、ジーンズを穿きこむほどに糸の表面側が剥がれ、糸の芯の白い部分が現れてきます。これがジーンズをはきこんだ時の「アタリ」や「ヒゲ」と呼ばれる濃淡のコントラストを生み出し、独自の風合いへと育て上げる楽しみとなります。

このロープ染色機で、デニムの糸が染め上げられるまでにたどる距離は、なんと1kmにも及ぶそうです。

カイハラさん本社工場のロープ染色機

世界最長のロープ染色機が収められているカイハラさんの本社工場

品質管理において最も難しいことの一つは、日本の四季による気温や湿度の変化に対応し、年間を通して安定した色を出すこと。機械化が進んだとはいえ、職人による細かな調整が必要だそうです。

デニム製造業界では、水資源の保護、化学薬品の削減、二酸化炭素排出削減といった環境対策も急速に進んでいます。カイハラさんは水の使用量削減にも積極的に取り組んでおり、10年前に比べて水の使用量が半分以下になっているそうです。

「デニムは経年美化する素材」

普段何気なく穿いているデニムが、どのような工程を経て生まれるのか。カイハラさんの工場見学を通じて、その奥深い世界をうかがい知ることができました。

今回のツアーを案内していただいた齋藤さんをはじめ、カイハラさんの社員さんのお話には「デニムは経年美化する素材」という表現がたびたびあったのも印象的でした。デニムの特徴は「経年変化」にあるとされますが、「変化」ではなく「美化」とするところに、デニムづくりを支える方々の愛着と情熱を感じました。

取材・文/田畑一彦 

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